◎三木稔の新著「オペラ<源氏物語>ができるまで」発売中

本書は、今年9月に東京・日生劇場で日本公演が行われ絶賛を博したオペラ<源氏物語>の創作にあたった年月に、「徳島新聞」紙上に連載した「音楽随想」を元に、オペラ創作のメモを加えて、日本と世界の狭間に立ち、臆することなく自分の道を歩む作曲家の生き様を問うものです。現代の文化状況に時に絶望しながらユーモアをもって立ち向かうその姿は多くの人の励ましにもなることでしょう。

中央アート出版社刊、発売中。定価1,800円(消費税別)

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◎瀬戸内寂聴、オペラ<源氏物語>について語る

 何といってもこのオペラの成功は、台本を書き、演出もしたコリン・グレアムの天才的力量と、三木さんの音楽の素晴らしさに依るものだろう。コリン氏は源氏物語を実によく読みこなした上で、主題を源氏と女たちの恋だけにしぼり、源氏よりも、女たちの不如意な恋の切なさと、怨みと、苦しさの情念の劇におさめてしまった。それを実に詩的な言葉で歌いあげている。舞台の両袖に三木さんの訳で、日本語の字幕が出るが、その訳もまた実に美しい日本語であった。
 明石の入道は、桐壷帝の二役でこれがまたいい。私はすっかりアンドルー氏に熱をあげてしまった。女たちにみんな死なれ、残された源氏が即位した冷泉帝を守る摂政大臣になる場面で幕が降りる。総立ちの拍手だった。私も手が痛いほど拍手をしつづけた。カーテンコールにも満足した。幕間にコリン氏に紹介されたが、実に謙虚な物腰のジェントルマンであった。終わった後も、すばらしい歌声が耳に残り、歌舞伎の「源氏物語」とは別の深い感動があった。
 考えてみれば、日本人だって、外国のオペラに出て、外国語で歌っているのだから、外国人が、ここまで日本のオペラに溶け込んでも不思議はないのだった。コリン氏が恋の情熱だけを劇の背骨にしたことが成功だった。
 歴史オペラ連作をライフワークとする三木さんの次のオペラは、八世紀奈良時代を舞台にしたいという。奈良と中国を結ぶ劇を書いてくれと依頼されている。私はオペラ「源氏物語」を聴きながら、いつの間にか頭の中に、これから書くであろう、新しい劇の場面が次々浮かんできた。長生きはいいのもだと、ホテルに帰ってからも興奮して、なかなか寝つけなかった。(週刊新潮 10月11日号より転載)


オペラ<源氏物語>舞台写真(日生劇場、セントルイス・オペラ、2001年9月16,18,20日)

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