日本とともに世界の音楽の潮流を自由な眼で展望するコーナーです。
音楽批評家、石田一志氏が 隔月で纏めていきます。
もうひとつの現代音楽として長く聴いてきたのがモダン・ジャズである。昨年は、ケン・バーンズ監督のDVD10枚組のドキュメンタリー映画「ジャズ」(PIBI−1010)が日本でも発売され、歪みが多く愚行にあふれた米国社会のなかでいかにジャズが新しいメッセージとたくましい様式展開をおこなったかを豊富な映像資料で確認することができた。 先日、ニューヨークに出かけたついでに幾つかジャズ・スポットを訪ねたが、アヴェリー・フィッシャーホールの「ジャズ・アット・リンカーン・センター」のデイヴ・ブルーベック八重奏団のニューヨーク初公演(3月22日)はすばらしかった。 満員の聴衆は今年84歳となるブルーベックを迎えて、モダニズムを探求していた時代のジャズの在りし日を偲び、なお新鮮なアイディアを傾聴し熱烈な拍手を送っていた。 デイヴ・ブルーベック八重奏団は、1946年にブルーベックが始めて結成したグループ。アメリカでは戦後兵士に高等教育機関が開放された。ブルーベックもカリフォルニア州オークランドの本来女子大であったミルズ・カレッジに入学。フランスから亡命していたミヨーに作曲を師事した。この時の同門10名の内で結成したのがこのグループである。「六人組」を代表するミヨーはいうまでもなく第1次大戦直後ジャズをパリに紹介し、現代音楽に新風を注いだ作曲家。その影響からか、創立メンバーのひとりクラリネットのビル・スミスをフィーチャーし、ラッセル・グロイドの指揮、ボビ・ミリテッロのアルト、チャールズ・ピローのテナー、ガリ・スムリアンのバリトン、ルー・ソロフのトランペット、ジム・ピューのトロンボーン、マイケル・ムーアのベース、ランディー・ジョーンズのドラムというベテランで固めた八重奏団のスタイルはまさにもうひとつの「クールの誕生」を告げるものであったことが再現された。一言でいえば、和声探求に向かったバップとは異なって、ポリフォニー志向であり、それを効果的に扱ったテクスチュアの豊かさは、今日でもなお新鮮な音楽的密度とインタープレイの魅力を伝えていたからである。半世紀前の話を生き生きと物語るブルーベックの話術、それに当時のシングルトーンによるアドリヴ・スタイルを再現したピアノ、合わせてモダン・ジャズ誕生の伝説に触れたおもいがした。 帰国後、水俣や広島の悲劇をテーマにしたり、ビッグ・バンドに邦楽器を取り入れたり、メッセージの現代性や表現法オリジナリティを追及してきた秋吉敏子が、とうとうビッグ・バンドを解散してピアニストとして新たな船出をするというので、ジャズ評論の岩浪洋三さんに誘われ、横浜みなとみらいホール(4月9日)に出かけた。今回は、ハイ・ティーンの名手ということで話題になっているピアノの松永貴志、サックスの矢野沙織との競演があった。彼らは溌剌とした音で自己を語り、70歳を越えた秋吉敏子は風格あるピアノで温かくその存在を抱擁した。日本のジャズ界にもこうした世代の幅ができたことをうれしく感じた。 なお、来る5月10日には「ロシア・モダニズム」をテーマにした演奏会(すみだトリフォニーホール小、主催ロシア音楽家協会)で、1920年代前後の名作、実験作と一緒に、守屋純子五重奏団にショスタコーヴィチとプロコフィエフの主題での演奏をお願いしている。
バックナンバー
| 第二回 2002統営国際音楽祭 第一回 オストラバ・ニュー・ミュージック・デイズとガウデアムス音楽週間 |